建設業許可と社会保険

法律上、法人の場合は(取締役を含む)1人以上、個人事業の場合は5人以上の従業員が在籍する場合、社会保険への加入が義務づけけられています。

しかし、社会保険料の会社負担を避けるためや、財政的に従業員や作業員の社会保険料の負担に耐えられないとの理由で、社会保険への加入をしない建設業者が多数存在するのが現状です。

さらに建設業者の従業員や作業員は社会保険制度自体をよく理解しておらず、給料から社会保険料を天引きされることを好まず、将来受け取ることができる年金よりも現在の手取りを優先する労働者が多いことも社会保険の未加入を助長しています。

社会保険は社員が安心して働くことが出来るようにするための制度です。本来であれば、建設業の経営者さんは、社会保険料は賃金の一部、経営上当然のコストと考え、事業計画を立てる必要があります。

堀田事務所においても、合法的に保険料の負担を軽くし、受取る給付を増やす方法や、経営の効率化をご提案しています。しかし、それは社会保険制度を軽視するものではなく、企業も社会の構成員の一員として、自分だけよければよいという考えでなく、相互扶助の精神を忘れることなく、企業の責務として社会保険料を負担すべきという理念を根本に持ち。それと併せて、企業には継続するという社会的使命・責任もあるので。それらを両立するお手伝いを少しさせていただいております。

強制適用事業所が社会保険に未加入の場合、障害が残った従業員や、亡くなった労働者の遺族から社会保険未加入(労働契約上の債務不履行)によって受給できなかった給付に対しての損害賠償金請求があれば、使用者側が裁判で敗訴する可能性が高く、それは建設業者としての存続をも危うくするものです。

ブラック企業問題など、労働者側の権利に対する関心が社会的にも高まりをみせています。強制適用事業所であるにも関わらず、社会保険未加入であることは、裁判で訴えられることになる潜在的リスクを抱えているということもできるのです。

建設業の経営者として、社会保険の未加入にはこうしたリスクがあること、そして、社会保険未加入業者が多いことによって今後、建設業界全体に起こることが懸念されている問題について、是非一度考えてみて下さい。

社会保険未加入の建設業者が多数存在することによる問題①

  • 総務省「国勢調査(2010年)」によると現在、60歳以上の建設技能労働者は52万人存在し、全体の約18%に上ります。今後も、引退による労働者の減少は続き、10年後には、大半が引退することが予想されます。
  • 建設業界において社会保険が未整備である業者が多いという労働条件の悪さは、若年入職者のを減少させる一因となっていると考えられています。その結果、建設業に関する技術が次世代に継承されず、社会資本である道路や公共建物の維持が困難になることが懸念されています。
  • ※一定の能力を備えた技能労働者を育成するためには、職種によるものの、概ね10年程度の時間がかかると言われています。

社会保険未加入の建設業者が多数存在することによる問題②

  • 元請である建設業者間で価格競争が激化し、下請業者に対する単価引き下げ圧力が増大しています。
  • その結果、真面目に人材育成を行っている建設業者よりも、社会保険に加入せず社会保険料を支払っていない建設業者が保険料を負担していない分、価格競争に有利になるという不公正な競争環境が生じています。
  • このような現状が、建設業者の社会保険未加入を助長し、建設技能労働者の処遇を低下させ、ひいては技能者の離職や若年入職者の減少につながっていると考えられています。


社会保険未加入問題に対する具体策

① 建設業許可・更新時の社会保険未加入状況の確認

平成24年11月1日より、建設業許可申請時と、更新時に社会保険への加入状況の確認が行われています。

  1. 新規申請及び許可更新の際に、様式20号の3「健康保険等の加入状況」という新様式を提出させ、社会保険の加入状況の確認が行われています。
  2. 社会保険への加入は、建設業の許可要件ではないので、「未加入=不許可または許可の取消」とはなりませんが、許可と同時に指導文書が送付されてきます。
  3. 指導文書に基づいた社会保険の加入報告が求められます。
  4. 指導に応じず社会保険に加入しない場合は、社会保険担当部局に通報されます。(健康保険・厚生年金関係⇒日本年金機構が担当部局、雇用保険関係⇒地方労働局が担当部局)
  5. 社会保険担当部局により、強制加入・保険料強制徴収が行われます。

② 経営事項審査における社会保険未加入業者の減塩幅の拡大

平成24年7月1日より、建設業者の客観的評価を行う経営事項審査において、従来から実施されていた社会保険未加入業者の減点幅が拡大されました。

従来「健康保険および厚生年金保険」として1つの評価項目であったものを2つに分割し、更に各保険への未加入時における減点幅も拡大されました。

従来 

  • 雇用保険未加入
    -30点 W点への影響 -285点 P点への影響 -43点
  • 健康保険及び厚生年金保険未加入 
    -30点 W点への影響 -285点 P点への影響 -43点
  • 両方とも未加入の場合(合計)  
    -60点 W点への影響 -570点 P点への影響 -86点 

改正後

  • 雇用保険未加入         
    -40点 W点への影響 -380点 P点への影響 -57点
  • 健康保険未加入         
    -40点 W点への影響 -380点 P点への影響 -57点
  • 厚生年金保険未加入       
    -40点 W点への影響 -380点 P点への影響 -57点
  • 3保険とも未加入の場合(合計)
    -120点 W点への影響 -1140点 P点への影響 -171点 

③ 元請業者を通じた下請業者への指導

社会保険未加入の建設業者は、下請業者に多く見られます。
そのため、元請業者による下請指導の一環として、社会保険への加入指導を含めることとなりました。

施工体制台帳の記載項目に「社会保険の加入状況」を加えることにより、施工体制台帳を作成すべき特定建設業者たる元受業者が下請業者の社会保険加入状況を必ず確認する体制が整えられました。

一方、元請業者は、行政庁による工事現場などへの立ち入り調査の際に、下請指導として社会保険への加入指導を行っているか確認されるため、下請への指導を徹底する必要性が生じます。
元請業者による下請指導として今後行われるであろう内容は、概ね以下のようなものです。

  • 下請選定の際に社会保険加入状況を考慮し、社会保険未加入の下請業者を採用しない。
  • 現場ごとに社会保険の加入状況を証する書類を提出させる。
  • 社会保険未加入の技術者や作業員を現場に立ち入らせない。
  • 下請基本契約書に社会保険加入条項を追加し、違反者とは取引を行わない。

④ 社会保険未加入による行政処分

社会保険未加入の建設業者に対しては、新規の建設業許可申請や建設業許可の更新時に加入指導が行われていますが、これに応じないときは社会保険担当部局による強制適用や強制徴収へと進んでいきます。これらの過程において、社会保険担当部局への対応や情状が悪質である場合は、刑事罰に発展することになります。

建設業者が、社会保険関係の法令に違反して懲役や罰金刑を受けたときは、建設業許可行政庁による監督処分の対象になり営業停止処分や指示処分が行われることになります。

社会保険未加入の建設業者様へ

社会保険に新規加入することは、確かに大幅な利益圧迫要因となります。しかし、社会保険の
強制適用事業所の場合、法令で加入が義務付けられており、これに違反すると罰則(健康保険
法:6ヶ月以下の懲役又は30万円以下の罰金、厚生年金保険法:6ヶ月以下の懲役又は20万円
以下の罰金)が課されることにもなりかねません。

確かに経費はかかりますが、社会保険加入には以下のようなメリットがあります。

 社会保険加入のメリット

①社会保険(厚生年金保険・健康保険)に加入していないと、国民年金、国民健康保険に加入することになります。

配偶者(奥さん)も建設業の運営を手伝い、社会保険に加入していない場合、その配偶者も国民年金の第1号被保険者として国民年金の掛金(月額15,250円、平成26年度現在)を負担しなければなりません。本人分と合算すると毎月30,500円の負担となります。

しかし、社会保険に加入していれば、配偶者は、国民年金の第3号被保険者となるため、保険
料の個別負担はありません。

②国民年金の給付である老齢基礎年金の場合、保険料を納めることが出来る40年間掛金を収め続けた場合でも夫婦2人の合計で、月額約13万円(65歳以降支給の場合)であるのに対し、厚生老齢年金の場合、保険料を40年間納めた場合一般的とされるモデル世帯で約23万円が支給されます。

さらに、厚生年金保険は国民年金にくらべ、老齢に対する給付だけでなく、死亡や障害に対す
る給付も、より厚い給付を受けることが出来ます。

③健康保険では、国民健康保険にはない「傷病手当金制度」というものがあり、仕事以外の病気や怪我の療養のため仕事を連続して4日以上休んでおり、給料を受けられない場合に、その4日目から生活保障として欠勤1日につき標準報酬日額の3分の2の金額が支給開始日から1年6ヶ月を限度として支給されます。

たとえば、取締役社長が大病を患い、手術し、長期療養を余儀なくされたとき、社長の役員報酬を無報酬にすることで、社会保険の被保険者である社長が傷病手当金を受給することも可能です。

※社長の標準報酬月額が60万円だとすると、その3分の2の金額である40万円が最長で1年6ヶ月間にわたり受給することが出来ます。

④労災保険には休業(補償)給付というものがあり、従業員が業務災害・通勤災害によって労働できない状態になり、その間の賃金が受けられなくなった場合、休業4日目から1日につき給付基礎日額(被災発生日または診断日の直近3ヶ月間の賃金総額 ÷ 直近3ヶ月間の総暦日数)の6割が支給されます。さらに、労働福祉事業により1日につき給付基礎日額の2割の休業特別支給金も支給されるため合計、実際に働いていたときの8割の額を休業の補償として受給することができます。

⑤雇用保険に加入していると従業員が失業した場合、生活保障として失業給付を、育児や介護を行う労働者や高齢者の雇用の維持をサポートするための給付金の受給、労働者の職務能力を向上されるための教育訓練に関する給付金などを受給することが出来るだけでなく、従業員の雇用維持を図る場合や、従業員を新たに雇い入れる場合、従業員の処遇や職場環境の改善を図る場合など雇用関係助成金を活用することができます。雇用関係助成金は雇用保険適用事業所でなければ利用することができません。

⑥社会保険(健康保険、厚生年金保険)や労働保険(労災保険・雇用保険)に加入していると、従業員も安心して仕事に励むことが出来ます。更に、人材募集においても「社会保険完備」と記載されていれば、優秀な人材確保にも有利に働きます。

※保険料の多くを営業や事務職員の人件費や広報(コマーシャル)に当てなければならず、加入するにの職業や病歴、年齢など様々な条件をクリアしなければならない民間の医療保険とくらべ、その運営において国庫負担(税による補助)の対象でもある社会保険はコストパフォーマンスにおいても非常に優れた保険といえます。

所得再分配機能をもっている社会保険に加入しないことは、せっかく収めた税金が行政サービスというカタチで還元されることを自ら放棄しているということも出来るのです。