建設業の労働時間管理③(時間外割増賃金)

建設キャリアアップシステム活用による、働き方改革の推進には、
「年次有給休暇の年 5 日取得日の確保」や「労働時間の状況の把握の実効性確保」が重要となります。
このページでは建設業の労働時間管理③として時間外割増賃金について解説します。

時間外割増賃金の計算方法

割増賃金には、時間外割増賃金、休日割増賃金、深夜割増賃金があり、
それぞれの割増率が、労働基準法第37条により定められています。

① 時間外労働             2割5分以上
② 深夜労働              2割5分以上
③ 法定休日労働            3割5分以上
④ 時間外労働が深夜に及んだ場合    5割以上(①+2割5分以上)
⑤ 休日労働が深夜に及んだ場合     6割以上(②+2割5分以上)
⑥ 月の時間外労働が60時間を超えた場合 5割以上とされています。

例えば、時給1,000円の労働者に、
1日の法定労働時間8時間を1時間超えて9時間外労働させた場合には、
1,000円×1.25(時間外割増率)×1時間=1,250円の時間外労働に対する割増賃金の支給が
必要となります。

時間外割増は1週間についても、計算され、
1週間40時間を超えた場合も割増賃金の支払いが必要となります。

例えば、
月曜日から土曜日まで毎日7時間働いた場合(日曜日は休日とします)
1日の労働時間は7時間なので、法定労働時間である8時間以内であるため、
1日(8時間)についての割増賃金は発生しません。

しかし、1週間でみると、7時間×6日=42時間となり40時間を超えているため、
週40時間を超えた、2時間分については割増賃金を支払う必要があります。

したがって、
1,000円×1.25(時間外割増率)×2時間=2,500円の時間外労働に対する割増賃金の支給が
必要となります。

なお、法定労働時間である、1日8時間、1週間40時間の双方を超えて労働させた場合については、
まずは 
(1) 1日8時間の法定労働時間を超えた時間分を計算し
続いて
(2) 1週40時間の法定労働時間を超えた分を(1)で時間外労働となる時間を控除して計算します。

例えば、月曜から土曜まで毎日、
1日の法定労働時間8時間を超える9時間労働し、1週間の法定労働時間を超える54時間労働した場合

まずは(1)
1日の労働時間は、9時間なので、1日の法定労働時間である8時間を1時間超えているため
8時間を超えた1時間について、割増賃金の対象となり1時間×6日=6時間の時間外労働となります。

続いて(2) 
1週40時間の法定労働時間を何時間超えているか計算する際には、
1週間の労働時間は、9時間×6日=54時間となり、1週間の法定労働時間である40時間を
14時間超えていますが

1日に9時間労働した日の、8時間を超えた部分の1時間については
既に(1)で時間外労働として計算しているので、1週40時間を計算する際には、

この1時間については控除し(9時間-1時間=8時間)として計算し
8時間×6日=48時間となり、1週40時間の法定労働時間を超えた時間外労働は8時間となります。

したがって、この場合の、時間外労働時間は、
1日の法定労働時間を超えた分(6時間)+ 1週間の法定労働時間を超えた分(8時間)の
合計の14時間となります。

なお、法定休日に3時間の休日労働をさせた場合には、
1,000円×1.35(休日割増率)×3時間=4,050円の休日割増賃金が必要となります。

1年単位の変形労働時間制採用時の時間外割増賃金の支払い

1年単位の変更労働時間制を採用していたとしても、次の時間については時間外労働となり、
割増賃金を支払う必要があります。

①労使協定で、1日8時間を超える時間を定めた日は、
 その時間、それ以外の日は、8時間を超えて労働した時間

②労使協定で、1週40時間を超える時間を定めた週は、
 その時間、それ以外の週は1週40時間を超えて労働した時間(①で時間外労働となる時間を除く)

例えば、
カレンダーに基づき、各日および各週の労働時間を定め(1日あたりの所定労働時間は8時間とします)

1年単位の変形労働時間制採用時の時間外割増賃金説明図1

(1)については、
 法定の40時間を超えた時間に対して、時間外の割増賃金を支払う必要があります。

(2)については、
 労使協定で定めた48時間を超えた時間に対して、時間外の割増賃金を支払う必要があります。

(3)については、
 法定の40時間を超えた時間に対して、時間外の割増賃金を支払う必要があります。

③変形期間における法定労働時間の総枠
(1週間の法定労働時間40時間)×(変形期間の暦日数365日)÷7 
= 2085.71時間(2085時間42分)を超えて労働した時間 (①②で時間外労働となる時間を除く)
※ 閏年(366日)の1年間の変形期間における法定労働時間の総枠は2,091時間24分

例えば、
変形期間の暦日数365日、年間休日105日、年間労働日数260日
1日の所定労働時間は8時間、
年間総労働時間は2080時間の1年単位の変形労働時間制をとっていた場合で

年間休日カレンダーにて、8月13日(日)~8月19日(土)の1週間についてはすべて、
休日としていた場合に、業務の都合により、8月14日(月)~8月18日(金)について、
それぞれ8時間(合計40時間)勤務させた場合、仮に、その年の時間外労働が無かったとすると

1年単位の変形労働時間制採用時の時間外割増賃金説明図2

元々の年間総労働時間である2080時間 + 40時間 = 2120時間となり

変形期間における法定労働時間の総枠2085時間42分を(2120時間-2085時間42分の計算により)
34時間18分超えているため、
この超えた時間については、2割5分以上増しの時間外割増賃金の支給が必要となります。

この総枠を超える労働が行われたか否かは、変形期間の終了まで確定しないことになりますので
この部分の時間外手当は、変形労働期間終了後、直近の賃金支払
(1月1日~12月31日が変形期間である場合には1月の賃金支払い)により精算されます。

1年単位の変形労働時間制採用時の途中退職者、途中採用者の取扱いについて

対象期間中に採用された労働者や退職した労働者は、
週40時間を超える枠が設定されている期間のみ就労し、週40時間未満の枠が設定されている
(年末年始、GW、お盆)期間において就労していないという場合があります。

この場合、会社で定めた就業カレンダー通りに働いていたとしても、
③の変形期間における法定労働時間の総枠を超えた分の割増部分の清算が
必要になるケースがあります。

このような労働者については、
実際に働いた期間の労働時間の平均が週40時間を超える場合には、
その分の時間外割増手当支払わなければなりません

1年単位の変形労働時間制の対象期間の途中に退職または採用された労働者の
清算の計算方法については、

〇途中退職者等については退職等の時点において、
〇途中採用者等については対象期間終了時点
(※当該途中採用者等が対象期間終了前に退職した場合は当該退職の時点)において、

次のように計算します。

精算の際に割増賃金を支払う時間
= 実労働期間における実労働時間 - 実労働期間における総労働時間の総枠(実労働期間の暦日数÷7×40時間)
- 実労働期間における①1日8時間(※)及び②1週40時間(※)を超える時間外労働

※ 1日8時間、1週40時間を超える時間が定められている日、週においてはその時間

例えば、
以下のような1年単位の変形労働時間制が適用されている事業所において、
Aさんが4月1日から9月30日まで勤務した場合(時間外労働はなかったと仮定)。

1月  136時間   2月  168時間  3月  192時間
4月  176時間   5月  168時間  6月  192時間
7月  184時間   8月  144時間  9月  184時間
10月 184時間  11月 176時間  12月 176時間 

勤務した期間が1年単位の変形労働時間制の対象期間である1年間より短いため、
会社に清算義務が生じます。

Aさんが勤務していた期間の所定労働時間は、4月1日から9月30日までの暦日数が183日であり、
上記の表に基づいて4月から9月までの実労働期間における実労働時間は、1,048時間となります。

これを先ほどの式に当てはめると、精算の際に割増賃金を支払う時間は、

実労働期間における実労働時間 (1,048時間)
- 実労働時間における総労働時間の総枠(実労働期間の暦日数183日÷7×40時間)
- 実労働期間における1日8時間(0と仮定)及び1週40時間(0と仮定)を超える時間外労働
= 1,048 -(183÷7×40)= 1048 – 10145.71… ≒ 3時間」となることから、

変形労働時間制に基づく勤務カレンダーどおりに勤務したとしても、
3時間分については時間外労働に対する
3割5分以上増の割増賃金を追加して支払う必要があります。

このように、1年単位の変形労働時間制の適用者については、
対象期間の全期間勤務した者との均衡を図るため賃金の清算が必要になることがありますので、
その点に留意が必要です。

なお、1年単位の変形労働時間の対象労働者において、
育児休業や産前産後休暇などの休暇を取得するために、
実際の労働時間が対象期間よりも短い者については、この清算は適用されません。

1年単位の変形労働時間制採用時の休日労働に対する割増賃金の支払い

1年単位の変形労働時間制において、週休制をさらに制約した休日設定が求められています
1年単位の変形労働時間制においては、原則として6連勤を最長とし休日をはさまなければなりません。

※例外として、繁忙期として特定期間をあらかじめ労使協定に定めることにより、
週1日の休日をあたえればよい、連続12連勤を可能とする期間を定めることができます。
よって、1年単位の変形労働時間制においては、変形週休制は組めないということになります。

(1)については、
法定の40時間を超えた時間である8時間に対して、時間外の割増賃金(2割5分以上)を支払う必要は
ありますが、この場合は所定休日となり法定休日労働とはなりません。

(2)については、
連続6連勤を超えているため、特定期間に該当しない場合は、法定休日労働となり
日曜日の労働8時間については、法定休日労働として3割5分以上の割増賃金を支払う必要があります。
なお、日曜日に出社した第2週については、週40時間で協定しているため、
1週間の法定労働時間40時間を超えていますが、法定休日労働の割増分3割5分以上を
支払うのみでよく、
時間外労働分 2割5分以上 + 法定休日労働分 3割5分以上 = 6割以上とはなりません。

これに対し、日曜日の休日労働が深夜(午後10時~翌5時)に至った場合は
法定休日労働分 3割5分以上 + 深夜労働分 2割5分以上 の割増が必要となります。

特定期間については、下記のカレンダーの様に連続12日まで連勤が可能となります。
この場合は、休みとなっている土曜日に出社した場合は、法定休日労働となります。

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