健康保険

〇健康保険法の目的

健康保険法は、労働者又はその被扶養者の業務外の事由による疾病、負傷、若しくは、死亡又は出産に関して
保険給付を行い、もって国民の生活の安定と福祉の向上に寄与することを目的としています。

なお、労働者の業務上の事由又は通勤による負傷や疾病の場合は、
労災保険により保険給付が行われます。

〇健康保険の運営主体である保険者の種類

①健康保険組合(いわゆる組合健保)
単一企業 又は 複数企業により設立され、その企業の被用者と その家族(被扶養者)を対象として、
健康保険事業を行っています。

②全国健康保険協会(いわゆる協会けんぽ)
政府によって設立され、健康保険組合に加入していない被用者と その家族(被扶養者)を対象として、
健康保険事業を行っています。

〇健康保険に加入しなければならない強制適用事業所

①国、地方公共団体又は法人の事業所であって、常時従業員を使用するもの。

②個人経営の事業所で、常時5人以上の従業員を使用する法定17業種に該当するもの。
(事業主本人は5人の中にカウントしません)

〇健康保険の被保険者となる者

健康保険の適用事業所(強制適用事業所・任意適用事業所)に使用される 次の ①や②の者は
健康保険の被保険者となります。

①常用労働者として適用事業所に使用される75歳未満の者
 ⇒所定労働日数及び所定労働時間数が、一般の労働者のおおむね4分の3以上の者は常用労働者とされます。

②法人の代表者、常勤役員で75歳未満の者
 ⇒法人の代表者、常勤役員として、業務を担当し報酬を得ている者は、適用事業所に使用される者とされます。

〇健康保険の任意適用事業所

健康保険の強制適用事業所とならない、「常時5人未満の従業員を使用する適用業種の個人事業所」や
「法定16業種に含まれない非適用業種の個人事業所」は、健康保険の被保険者となるべき者の2分の1以上の
同意を得て、健康保険の任意適用の認可申請を行うことで 健康保険の任意適用事業所となることができます。
ただし、健康保険の任意適用事業所となった場合であっても、
個人経営の事業所の事業主は、「使用される者」ではないため、健康保険の被保険者とはならず、
事業主の住所地の市区町村の国民健康保険の被保険者となります。

〇健康保険の被扶養者

健康保険では、被保険者の 病気・怪我・死亡・出産に対して 保険給付が行われますが、
被保険者に扶養されている 被扶養者についての 病気・怪我・死亡・出産に対しても 保険給付が行われます。

このように、健康保険の給付が行われる 被扶養者に該当するには、日本国内に住所(住民票)を有しており、
被保険者によ 主として生計を維持されていること
①収入要件 や ②同一世帯要件 などを満たす必要があります。

①収入要件
 公的年金や失業給付なども含めた 全ての年間収入が130万円未満
(60歳以上 又は 障害厚生年金の受給要件に該当する障害者は、年間収入180万円未満)であり、
 かつ
 同居の場合 収入が扶養者である 被保険者の収入の 半分未満であること。
 別居の場合 収入が扶養者である 被保険者からの 仕送り額未満であること。

②同一世帯要件
 イ.被保険者との同居が要件とならない者
  ・配偶者
  ・子、孫および兄弟姉妹
  ・父母、祖父母などの直系尊属

 ロ.被保険者との同居が要件となる者
  ・上記ア以外の3親等内の 親族(伯叔父母、甥姪とその配偶者など)
  ・内縁関係の配偶者の 父母 及び 子(当該配偶者の死後、引き続き同居する場合を含む)
   ※病院に入院している場合のように、一時的な別居と認められる場合は
    同一世帯に属するものとされます。


〇健康保険の被保険者とならない者(健康保険の適用除外 健康保険法第3条)

次のいずれかに該当する者は、
(②④⑤については日雇特例被保険者となる場合を除き)被保険者となりません。

① 船員保険の被保険者
 
② 臨時に使用される者であって、次に掲げるもの
 (1) 日々雇い入れられる者(1ヶ月を超え、引き続き使用されるに至った場合を除く。)
 (2) 2ヶ月以内の期間を定めて使用される者
  (2ヶ月以内の所定の期間を超え、引き続き使用されるに至った場合を除く。)

※令和4年10月以降は、当初の雇用期間が2ヶ月以内であっても、
 以下の、イ又はロのいずれかに該当する場合は、雇用期間の当初から被保険者となります。
 イ 就業規則、雇用契約書等において、その契約が「更新される旨」、
  または 「更新される場合がある旨」が明示されている場合
 ロ 同一事業所において、同様の雇用契約に基づき雇用されている者が、
  更新等により最初の雇用契約の期間を超えて雇用された実績がある場合

③ 事業所 又は 事務所の 所在地が一定しないものに使用される者 

④ 季節的業務に使用される者(継続して4ヶ月を超えて使用されるべき場合を除く。)

⑤ 臨時的事業の事業所に使用される者(継続して6ヶ月を超えて使用されるべき場合を除く。)

⑥ 国民健康保険組合の事業所に使用される者

⑦ 後期高齢者医療の被保険者(高齢者の医療の確保に関する法律の被保険者である75以上の者など)

⑧ 厚生労働大臣、健康保険組合 又は 共済組合の承認を受けた者
 (健康保険の被保険者でないことにより国民健康保険の被保険者であるべき期間に限る。)

⑨ 事業所に使用される者であって、次の(1) 又は (2)に 該当する者
(1) 1週間の所定労働時間が 同一の事業所に使用される
  通常の労働者の 1週間の所定労働時間の 4分の3未満である 短時間労働者
(2) その1ヶ月間の所定労働日数が 同一の事業所に使用される
  通常の労働者の 1ヶ月間の所定労働日数の 4分の3未満である 短時間労働者

※ 更に、従業員(被保険者数)101人以上の事業所に使用される者にあっては、
 (1)又は(2)に該当し、かつ、次の イ~ニまでの いずれかの要件に該当するもの
(従業員数101人については R6.10月からは 51人に 適用拡大予定)
 イ 1週間の所定労働時間が20時間未満であること。
 ロ 当該事業所に継続して1年以上使用されることが見込まれないこと。
 ハ 報酬(月額)について、厚生労働省令で定めるところにより算定した額が、
   8万8千円未満であること。(年間106万円未満)
 ニ 学校教育法に規定する大学の学生その他の厚生労働省令で定める者であること。

〇日雇特例被保険者

次の、①~④に該当する者は健康保険の日雇特例被保険者となることが出来ます。

① 1ヶ月以内の 期間のみ使用される 日雇労働者
② 2ヶ月以内の 期間を定めて 雇用される者
③ 4ヶ月以内の 季節的業務に 使用される者
④ 6ヶ月以内の 臨時的事業の事業所に 使用される者

ただし、次の①~③いずれかに該当する者は 日雇特例被保険者とはなりません。

① 引き続く2ヶ月間に 通算して26日以上 使用される見込みのないことが 明らかであるとき。
② 任意継続被保険者であるとき。
③ 後期高齢者医療の被保険者であるとき。

日雇特例被保険者になるためには、
健康保険の適用事業所で雇用され、かつ、日雇労働者として働き始めてから5日以内に、
日雇特例被保険者となろうとする者が 居住する地域の年金事務所(又は指定市町村 特別区)で、
日雇特例被保険者となろうとする者が 自ら加入手続きを行い、
日本年金機構から 「日雇特例被保険者手帳」の交付を受けることが必要となります。

日雇特例被保険者の健康保険料の納付は、
健康保険の適用事業所の事業主が、日雇特例被保険者を使用した場合に、
その者の、「日雇特例被保険者手帳」に 健康保険印紙を貼り、消印をするという方法で行われます。

〇健康保険の給付

①被保険者本人 又は 被扶養者が病気や怪我をした時の給付

イ. 被保険者本人に対する「療養の給付」 被扶養者に対する「家族療養費」  
 業務外の事由により、健康保険の被保険者や 被扶養者が 病気や怪我をした時、
 保険医療機関に 健康保険証を提示することで 診察、薬剤、処置などの「現物給付」を受けることができます。

ロ. 被保険者本人に対する「療養費」 被扶養者に対する「家族療養費」
 健康保険では、保険医療機関の窓口に被保険者証を提示して診療を受ける「現物給付」が原則となりますが、
 やむを得ない事情で、保険医療機関で保険診療を受けることができず、
 自費で受診したときは、その費用について、療養費として「現金給付」が支給されます。

ハ.保険外併用療養費
 健康保険では、保険が適用されない保険外診療があると保険が適用される診療も含めて、
 医療費の全額が自己負担となります。ただし、保険外診療を受ける場合でも、
 厚生労働大臣の定める 先進医療や 医薬品・医療機器の治験に係る療養等である「評価療養」
 患者の申出に基づき 厚生労働大臣が認めた高度の医療技術を用いた療養である「患者申出療養」
 個室などの特別の病室に入院した場合や、時間外診療、予約診療を受けた場合などの「選定療養」は、
 保険診療との併用が認められ、通常の治療と共通する部分(診察・検査・投薬・入院料等)の費用は、
 一般の保険診療と同様に扱われ、その部分については一部負担金を支払うことで足り、
 残りの額は「保険外併用療養費」として健康保険から現物給付が行われます。
 また、被扶養者の保険外併用療養費にかかる給付は、家族療養費として給付が行われます。

ニ. 訪問看護療養費
 居宅で療養している人が、かかりつけの医師の指示に基づいて訪問看護ステーションの訪問看護師から
 療養上の世話や必要な診療の補助を受けた場合、その費用が、訪問看護療養費として現物給付されます。

ホ. 入院時食事療養費
 被保険者が病気や怪我で保険医療機関に入院したときは、療養の給付と併せて食事の給付を
 入院時食事療養費として受けられます。

ヘ. 入院時生活療養費
 65歳以上の被保険者が 療養病床に入院した際の、食事療養 並びに 温度、照明 及び 給水に関する
 生活療養に要した費用については、保険給付として入院時生活療養費が支給されます。

ト. 移送費 (家族移送費)
 病気や怪我で移動が困難な患者が、医師の指示で一時的・緊急的必要があり、移送された場合は、
 移送費が 現金給付として支給されます。 医師等が同乗した場合の費用は、「療養費」として支給されます。

チ. 高額療養費
 長期療養を要し、医療費の自己負担額が高額となる場合に、年齢や所得に応じて定められている
 自己負担限度額を超えた金額が 高額療養費として 支給されます。

リ. 高額介護合算療養費
 世帯内の同一の医療保険の加入者について、毎年8月から1年間にかかった医療保険と介護保険の
 自己負担額を合計し、年齢や所得に応じて定められている基準額を超えた場合に、その超えた金額が
 高額介護合算療養費として 支給されます。

②被保険者本人が病気や怪我で働けないときの給付

イ. 傷病手当金
 傷病手当金は、病気休業中に被保険者とその家族の生活を保障するために設けられた制度で、
 業務外の病気や怪我のために 会社を休み、会社を休んだ日が 連続して3日間ある場合、
 4日目以降、休んだ日に対して、その間の生活保障として支給されます。

 傷病手当金の1日当たりの支給額は
 日額 = 支給開始日の以前12ヶ月間の各標準報酬月額を平均した額(※) ÷ 30日 × 2/3
 (※支給開始日とは、最初に傷病手当金が支給された日のことをいいます。)

 傷病手当金の支給期間は、支給を開始した日から通算して1年6ヶ月とされています。

 なお、健康保険の任意継続被保険者は、傷病手当金は支給されませんが、
 次のaとbの継続給付の要件を満たす場合は、継続して傷病手当金の支給を受けることが出来ます。
 a.健康保険の被保険者の資格を 喪失した日の前日まで 引き続き1年以上被保険者であったこと
 b.健康保険の被保険者の資格を 喪失した際に 傷病手当金の支給を受けていること

③出産したときの給付

イ. 出産手当金    
 被保険者が出産のため会社を休み、報酬が受けられない間の生活保障として 出産手当金が支給されます。
   
 出産手当金の1日当たりの支給額は
 日額 = 支給開始日の以前12ヶ月間の各標準報酬月額を平均した額(※) ÷ 30日 × 2/3
 (※支給開始日とは、最初に出産手当金が支給された日のことをいいます。)
    
 出産手当金の支給期間は、
 原則として、出産の日以前42日~出産の翌日以後56日目までの範囲内で、会社を休んだ期間とされています。

 なお、健康保険の任意継続被保険者の方は、出産手当金は支給されませんが、
 次のaとbの継続給付の要件を満たす場合は、継続して出産手当金の支給を受けることが出来ます。
 a.健康保険の被保険者の資格を 喪失した日の前日まで 引き続き1年以上被保険者であったこと
 b.健康保険の被保険者の資格を 喪失した際に 出産手当金の支給を受けていること

ロ. 出産育児一時金・家族出産育児一時金     
 被保険者 及び その被扶養者が妊娠4ヶ月(85日)以上の出産をした時に 分娩費用の補助として1児につき
 42万円(産科医療補償制度未加入医療機関等での出産は40.4万円)が 一時金として支給されます。

 なお、出産育児一時金が支給されるまでの間に、出産に要する費用が必要となった場合の、
 出産費用の支払いに充てる資金に関しては 無利子で貸付を行う 出産費貸付制度が設けられています。

④死亡したときの給付

イ.被保険者本人が死亡したとき「埋葬料」、被扶養者が死亡したとき「家族埋葬料」
 被保険者が業務外の事由により亡くなった場合、亡くなった被保険者により生計を維持されていた、
 埋葬を行う者に「埋葬料」として5万円が支給されます。
「埋葬料」を受ける者がいない場合は、埋葬を行った者に5万円の範囲内で「埋葬費」が支給されます。
 被扶養者が亡くなったときは、被保険者に「家族埋葬料」として5万円が支給されます。

〇(参考)退職後の健康保険

健康保険の適用事業所を退職後の健康保険の加入方法には
「任意継続」「国民健康保険」「家族の健康保険の被扶養者」の3つの方法があります。

健康保険の適用事業所に使用されていた者が、退職後に 個人事業主として 自営業を始めた場合は、
「任意継続」「国民健康保険」「家族の健康保険の被扶養者」のうち
「国民健康保険」の 被保険者となることが一般的ですが、

退職した健康保険の適用事業所にて 継続的に 2ヶ月以上健康保険に加入していた場合には、
これまで加入していた健康保険の保険者である健康保険組合や健康保険協会に、

退職日の翌日より20日以内に 「健康保険任意継続被保険者資格取得申出書」を提出することで、
退職の日の翌日より2年間 それまで使用されていた 健康保険の適用事業所の 健康保険の被保険者として、
健康保険に加入し続けることができます。

この様な被保険者を、「任意継続被保険者」といい、任意継続被保険者の健康保険被保険者証には、
任意継続被保険者である旨 及び 資格取得年月日として 前勤務先の退職日の翌日
資格喪失予定年月日として 退職日の翌日より2年後の年月日などが 記載されています。




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